執筆順・( )内は推定執筆時期
辺り一面ぼんやりしている。
夕立の押し寄せる一寸前、空一面墨を流していながら、どこからか日光が漏れて、すべてが凄みを帯びて光っているときに似ていた。
ただ西の空だけが妙に明るく、展望台のある山の鼻が黒くはっきり見えていた。
私は何かを望んで、その方を見ていた。
突然、山の向こうから赤いものがふわりと飛び出し、近づいて来た。
よく見ると赤い扇である。
それは私の手にすっぽりと乗り、私は嬉しくなった。
小さい女の子が来て、「その扇は私のです」と言う。
扇を返してやったら、喜んで駈けて行った。
私は呆然としながら、私と扇とその子が一所に落ち合ったのは奇妙な偶然だと考えた。
その夢は、不思議と強く印象に残っている。