執筆順・( )内は推定執筆時期
俊輔は隣家の幼馴染、美智子と毎朝、登校時に会うのを楽しみに感じるようになった。
道路に出て、少し前を歩く美智子の後ろ姿を見た。
少しずつ二人の距離がせばまり、足音が高くなり、とうとう美智子に追いついた。
驚いた彼女は顔を向け、俊輔であることを知るとにっこり笑い、頭を下げた。
俊輔はお辞儀をし、美智子を追い越した。
音高く、二人の距離は再び開いていった。
俊輔は電車の中で、中学生と女子学生の二人連れを見た。
彼等はあまりよい印象を与えなかった。
俊輔は不愉快な気持ちの中で、自分と美智子をこの二人に重ねて考えた。
この二人と同じようにみられるのは、たまらなく苦々しかった。
彼は自分の感情を心の内に、無理に抑え込まなければならなかった。
次の朝、俊輔は五分遅れて登校した。
道路に出ても、美智子の影はなかった。
彼はたまらない物足りなさを感じ、淋しさが胸を衝いた。
道路の上は何もない山のように、がらんとして空虚に思われた。