執筆順・( )内は推定執筆時期
昭和初期の小学6年の章は、学校をさぼって映画を見たり、弱気な友人をいじめて万引きをさせたりしていた。
学校の先生に対しても、反抗的な態度で接した。
中等科への進学を希望する集団に入り、受験勉強をするはずだったが、がんばって勉強に励む同級生達の熱意に足並みをそろえることができずにいた。
担任との面談で、母親は信頼関係を築くことができず、批判的な言動をとってしまう。
日頃の章の様子を見た担任は、中等科へ進学する見込みがないと判断してしまう。
章の非行の背景には、父の死や姉が婚家を出されたことなど、家庭内の不安感があった。
〈鑑賞〉
文彦にしては長めの小説。
三島のアドバイスにより、説明的な場面を削除したことが、書簡からわかります。
ささやかな意地悪や悪意ある行動が少しずつ重なり、転落していく少年を描き、魅力的です。
後半では進学という希望を自分でつぶしてしまい、破滅する将来が予想されます。
最後の場面で章の家庭の事情が明かされ、章の悪意が種明かしされますが、そこには文彦の未熟さが感じられます。
種明かしなどせずに、ひたすら章の悪意と転落だけを書いて終わりにしたならば、三島の小説に近いものになったのではないでしょうか。
堀辰雄と三島は、小説「少年」を高く評価しています。