執筆順・( )内は推定執筆時期
避暑地でのある夜、数人の少年少女達が集まり、楽しく過ごしていた。しかしその中に、1人、わがままな少年がいたため、不愉快な気持ちになった翠と義朗と章子は外に出た。
夜の道を3人で歩いていたところ、少し年長の俊輔も加わった。街燈の光の中を歩いて4人は夜の海へ出た。大きな闇の中に、海の気配があった。
俊輔は翠に、大声で不満をぶつけたらいいと促した。翠は声を出そうとするが、小さな声で「馬鹿」と言うことしかできなかった。やがて翠は笑い出し、その笑いはみんなに伝わった。
4人は戻ることにした。帰路で4人は、明るく打ち解けていた。翠は千鳥の鳴き声を真似しようとしたが、妙な地声が出てしまい、笑った。翠はすっかり晴れ晴れしていた。
翠と章子は家に帰り、義朗はみんながいる家に戻ることにした。俊輔は取り残され、翠と章子の笑い声が闇に吸い込まれていった。
〈鑑賞〉
ごく短いもので、小説とは言えないほどのものです。しかしこの「闇」について、三島は「「闇」が好きになった、といふのは取りも直さず文章を見る眼がある程度できた、学校の人たちより少しは眼が肥えてきた、といふことになります」と述べています。「闇」をどう読み、どう理解するかによって、文彦の評価も三島の評価も大きく分かれると言えます。
作文ではないかとさえ思えるようなこの小説には、実は大きな力があり、三島の晩年の作品への影響は、想像以上に大きいと言えます。くわしくは、別な稿で分析したいと思います。