東文彦と三島由紀夫のこと

2022-12-16 10:35:00

東文彦の本名

 東文彦の本名は、とても珍しい漢字です。

 東徤(あずま・たかし)です。

 「徤」は、〈ぎょうにんべん〉に「建築」の「建」です。

 この文字は、中国の古代思想、『易経』の注釈書の中に出てくる文字で、世界中でその一箇所だけで、おそらく使われている文字です。

 易経は、占いの易の元になる思想です。

 

 易経では、天が充実して活動している状態を理想としていて、それを「徤(けん)」と呼びます。

 人間や、その他の生き物、または事物や自然現象が充実している状態のことは、「乾坤」の「乾(けん)」という字を用いて呼びます。

 

 文彦のおじいさんである東武(あずま・たけし)さんが、かわいい孫に易経の理想を表す文字を、名前につけてくれたのです。

 中国思想や中国文学について、詳しい知識を持ったおじいさんでした。

 

 この名前によって、文彦は小さい頃には苦労もあったようです。

 文彦の小説には、易経の世界観を表現したものがあります。

 自分の名前から着想した可能性があると思われます。

 

 文彦と三島とは、互いに名前のことを手紙で書き送ったことはわかっていますが、詳しく書いた手紙そのものは、今のところ、見つかっていません。